「へぇ〜〜・・ここが人間の世界か〜、面白そう!」

セミロングの赤髪をゆらしながら、少女は東京都内の小高い丘の上に佇んでいた。
髪を掻きあげながら、ニンマリと微笑んだ笑顔が可愛らしい。その表情と笑顔だけならどこにでもいる普通の女の子だった。
だが、少女の姿かたちは、何から何まで明らかに人間とは間違っていた。
まずは体格、身長はわずかに10〜15cm程度、頭が大きく、体との割合が1:1,5程の比率。
そして、空中にふわふわと浮いている。そう、まるで御伽噺に出てくる妖精、といった形容が相応しかった。

「あっ・・いけないっ!女王さまから言われてたんだった!早速力になってくれる子をみつけなきゃっ!」

そう言ったが早いか、少女は眼下の街に向かって急降下をはじめた。
ピンク色の光体が、点滅しながら飛んでいき、やがて消えた。





「おいっ!お前っなんなんだよさっきの態度はよ!」
「最近ナマイキなんだよお前っ」

「で・・でも、先生の言うことはちゃんと聞かなきゃ・・掃除用具で遊んじゃいけないよぉ・・・」

「なんだとぉ?テメエが余計なチクリ入れるからオレたち昨日はセンセーにこっぴどく説教くらったんだぞ!」
「どうしてくれんだこのやろう!」

東京都・私立・天道学園(てんどうがくえん)初等部3年の廊下。
みるからに悪ガキといった感じの少年2人がまるで昭和漫画のワンシーンのように見るからに真面目で気の弱そうな男の子に絡み付いていた。
どうやら、前日の悪ふざけを言いつけられた腹いせのようだ。どうやらイジメっ子らしく周りの子ども達は遠巻きから見ているだけで誰も絡まれている男の子を助けようとしない。
あわや暴力が飛び出そうかという・・・そんなときだ。


「ねぇ・・ジャマなんだけど」


彼らの後ろからそんな声が届いた。
「え?」
「なんだ?」


振り返る。
そこには、少々ヤンチャっぽい容姿、服装に身を包み、片サイドで髪をアクセサリーで結わえた可愛らしい女の子が立っていた。
いじめっ子相手に臆することなく、悠然と見つめ返している。

決して体格は良くない、むしろ同年代の女子と比べても少々小柄。
しかし、眼には力があり、気後れはまったくしていなかった。


「なんだよオマエっオレたちに逆らおうってのか?」

「だったらナニ?イジメなんてカッコ悪いマネして恥ずかしくないの?アンタたち?もともと自分が悪いんでしょ?それもたなに上げて、バカじゃん?」

「こっ・・・こいつっ!」

的を射た発言にいじめっ子の一人が歯をむいて彼女を睨む。しかし、突っかかりそうになった彼をもう片方が止めた。

「おっ・・おいヤメロっコイツ・・・4組の愛澤だぜっ!」
「ええぇっ!あっ・・・あの3丁目の屋敷のデカイ犬をおとなしくさせたり・・・中学生のレディースをチャリンコレースで退治したってウワサの・・・!?」

「・・・・どんなウワサなのよソレ?」

「くぅっ・・・おっ・・覚えてろよ!」


勝手にそんなセリフを吐きながら行ってしまった悪ガキを尻目に、少女は廊下を歩き出そうとした。

「あっ・・ありがとうございます!あの・・アナタがウワサの4組の転校生。愛澤悠奈(あいざわゆうな)さんですね!」
「そうだけど、アンタだれ?」
「あ・・・あの・・僕、岡田まなぶっていいます!是非!お礼させてくださいっ!ほら、これ僕の好きな怪獣ゴモーラのシール・・」

「バカじゃん?そんなのほしい訳ないでしょ?それより、もう絡まれないようにちょっとは強くなりなよ。メガネくん」

捨てゼリフを吐いてその場を後にする姿に、周りからカッコイイ〜・・とため息が漏れる。






(チャリでレディースやっつけたなんて・・・一体だれのウワサなのよぉ〜〜・・・ったく・・)

自分の机に突っ伏しながら少女は先刻の事態を思い出した。

「ねぇねぇ聞いた?愛澤さんのウワサ」
「うんっ!あの田代と中村のいじめっ子コンビ撃退したって!」
「スゴイよねぇ〜クールだしカッコイイし・・・」
「アタシたちとは全然ちがうのねぇ〜!」


(あぁ〜〜ん、もうっ!だから違うのにぃ〜みんな誤解しすぎ!)

周りの女の子たちのヒソヒソ話に彼女、愛澤悠奈(あいざわゆうな)はゲンナリとした表情を見せた。

そう、実は彼女は大きな悩みを抱えていた。
彼女は誤解を生みやすい性格なのだ。
口下手であまり友達と親しくなれない欠点、それが彼女が可愛らしい顔立ちであるためにクールであると誤解されやすい。
さらに、転校生でまだ日が浅いがために、クラスにも溶け込めず、誰と接してもつっけんどんな対応になってしまっている。

そして、極めつけは彼女のスタイル、母親の趣味からややパンクの入った格好はそんな彼女の印象をよりいっそう近づき難くしていたのだ。

(だれかアタシを・・本当のアタシを見てくれる人っていないのかな?ホントはそんなに強くないんだよ。勉強も運動もニガテだし・・・どこにでもいるフツーの女の子なのにな・・・。)

「よぉっ!愛澤悠奈!なにへこんでんだよ?」

「わ!?・・・びっ・・びっくりした。なんか用?ええっと・・確か?」

「なんだよ。もう2ヶ月立つんだからそろそろ覚えろよ!日向、草薙日向(くさなぎひなた)」

そう元気に悠奈に笑いかけてきたのはクラスメートの草薙日向だった。彼だけは転校当初から、悠奈に気さくに話しかけて来る。
天性の明るさがこの少年にはあるのだろう。

「移動教室だぜ?一緒に行かないか?」

「めんどくさい。先に行っててよ、草薙くんもアタシと一緒なんてつまいないよ」
「なんだよ、せっかく誘ったんじゃん」

「誰も誘ってくれなんて言ってないでしょ?」

「ふ〜ん・・・まぁ、そう言うならいっか」


ややつまらなそうに、日向が教室を後にする。悠奈はまたもや頭を抱えた。


(うわぁ〜〜んっまたやっちゃったぁ〜〜っ!アタシのバカバカっ!せっかくヒナタくんが誘ってくれたのにぃ〜〜っ!)

実は、先ほどの日向が、悠奈の今現在憧れの男の子なのだ。
だれにでも親切で人当たりがよく、運動神経も良くておまけになかなかのイケメン。
学校の他の女子からも人気が高かった。
せっかく憧れの人が誘ってくれたのに相変わらずの冷めた態度。自分の性格を呪わずにはいられなかった。








「あ〜あ!もうっやんなっちゃう!ヒナタくんに嫌われちゃったかなぁ?」

自室のベッドに横になりながら、悠奈は天井を見上げた。

「どーしてアタシってこうなんだろ?スナオじゃないし、無愛想だし、こんな可愛くない女、誰からも相手にされないよぉ・・・」


「そんなことないよ!」



「・・・・・え?」


自分ひとりしかいないはずの部屋になにやら怪しげな声が響いた。

「アナタは本当はとっても優しくってピュアなカワイイ女の子♪」

「だっ・・・だれ?」

気が気ではない、明らかに自分以外に誰かがこの部屋にいる。気味が悪くなって悠奈は飛び起きた。


「こんにちはv」

「・・・・・・・。」

いきなり目の前に現れたヘンテコな少女に、悠奈はことばを失った。

まず、浮いている。そして人間ではないのに人間の言葉、しかも日本語をしゃべっている。
顔かたちは人間の少女に近いが、それはまるで、お化けか、ようせ・・・・





「きゃあぁぁーーーーーーーっっっ!!!」

 


部屋に響き渡る絶叫。
目の前に浮いている妙な地球外生命体に、悠奈は口をパクパクさせてへたり込む。

「どうしたの!?ユウナちゃんっ!」

「マ・・・マっ・・・ママっ・・・ア・・・アレっ!!」

娘の悲鳴を聞きつけた母が、血相を変えて飛んできた。そこには虚空を指差し、腰を抜かした娘の姿。
しかし、目の前を見ても、そこには何もない。

「?窓ガラスがどうかしたの?」
「そーじゃなくって、あのちっちゃくてフワフワしたのが見えないのっ!?」

しばらく、悠奈の指す宙を見つめてから、母は娘の肩を抱いて

「可愛そうに・・・疲れてるのね。今日はご飯食べたら、もう早く寝なさい。」

そういって出て行ってしまった。

「そ・・・そんなバカな・・・」

「クスッ」

不意に背後で笑い声がした。恐る恐るその方向を向く。

「普通の大人には私の姿は見えないわ。やっと会えた、私、あなたにお話が・・・」
「いやあぁぁーーーーーっっっ!!」


再び叫び声を上げると、近づこうとしたその小さな少女を振り切って、悠奈は猛スピードで家を飛び出した。

「ゆっ・・ユウナちゃんっ!?ちょっとドコ行くのぉ!?」

母の声にも耳を貸さず、ユウナはただただ走り続けた。
しばらく走って、膝に手をついて荒く息をつく。たどり着いた先は近所の公園だった。
夕方も遅い時間帯となったためか、遊んでいる子どもの姿は見られなかった。

「ハア、ハア・・・なっ・・なんなのよアレ、もう、ワケわかんない」


「だから、普通のヒトには私の姿は見えないんだってば」
「うわあぁっ!?いっ・・いるしっ!」
「なによさっきから聞いてれば、ちょっと失礼じゃないの?」

部屋を出てきたはずなのに、またしても目の前にいる小さな少女。
どうやら夢ではないようだ。となれば認めるしかあるまい。
この小さな妖精のような少女は自分にしか見えていないということを、そして目の前に現に存在しているということを・・・
悠奈は深呼吸して恐る恐る尋ねた。


「あ・・・アンタ・・・いったい何なの??」

「私はレイア、グローリーグラウンドに住むフェアリーよ」
「はあ?ふぇ・・・ふぇありぃ?・・・ぐろぉりいぐらうんど??」

「グローリーグラウンドはこの世界とは別の次元にある魔法の世界、私はあなたみたいなコを探していたのユウナちゃん。お願い、私に、私たちに力を貸して。私と一緒にグローリーグラウンドを守ってほしいの」

「は・・?はい?」

突然の告白に、目を白黒させる悠奈。
「今、私たちの国、グローリーグラウンドは、メイガス・エミリーという悪い魔女とダークチルドレンズの手によって乗っ取られようとしているの。それを守ることができるのは・・・・伝説の戦士、セイバーチルドレンズだけ、お願い!ユウナちゃんっ!セイバーチルドレンズの一人として、私たちを助けて!」

「ちょっ・・・ちょっとまってよ!いきなりワケわかんないことばっか言わないでよっ!なんなのよそのセイバーなんとかとか・・ダークなんたらとかって・・・」

「今説明している時間はないの!急がないともう・・・」
「ざ〜んねん♪どうやら時間切れみたいよ」

あまりの突発的事態に混乱していた悠奈に追い討ちをかけるように頭上から響く声。
今度はなんだと声のほうを見ると、悠奈とそう変わらない年頃の女の子が、いつの間にかジャングルジムの上に立っていた。
赤いジャケットに白のタンクトップ、黒のハーフパンツという軽装、明るい茶髪の可愛らしい美少女が、不敵な笑みを浮かべて、レイアと呼ばれたフェアリーと悠奈を見下ろしていた。

「ウフフ・・・レイア・フラウハート。やっぱりもう表の人間界に来ていたのね・・・。でも残念だけどここでさよならよ!アンタもその子も・・まとめて片付けてあげるわっ!」

「ちょっ・・ちょっと、なに?なんなのよもうっ」

「まって!この子はまだ何も知らないのっ!関係ないわっ」
「うるさいっ!ダークスパーク・トランスフォーム!」

言うが早いか、ジャングルジムに立っていた少女の体が光に包まれる。
悠奈は反射的に目をそむけたが、その光の中で、少女の服装が変化するのがわかった。

元に着ていた服は消え、光の中から、赤と紫を基調とした、ダンスコスチュームのような格好に変化した。
髪の色ももとの茶色から、今は紫に赤のツートーンカラーになっていた。

「なっ・・なにぃ?・・・ねぇなんなのよあのコ!なんか変身しちゃったよ!」

「トランスフォームよ、あの子がダークチルドレンズの一人よ、用心して!」

レイアが緊迫した表情で悠奈に注意を促した。

「ウフフフ・・・感心してるとヤケドしちゃうわよ?我が手に宿れ・・・イフリートの怒りよ・・・っ!ファイアボール!」

少女の掌の中に光の球が集まり、それが炎となって、悠奈たちに襲い掛かったっ!

「きゃあぁぁっ!」

反射的に悠奈は身を地面に投げ出した。狙いを外れた火の玉は、公園の遊具にぶつかり、やがて湯気を立てて消えた。
白い煙があたりから立ち上っている。

「・・・・っっ!!」

本日何度目の驚愕かわからない。
悠奈は目の前の出来事を整理するので精一杯だった。
人間の、それも自分と同い年くらいの年端も行かぬ少女が、なんと漫画のキャラクターのように掌から火の玉を放ってきたのだ。
夢だと思いたい。しかしそう思うにはいささかリアリティーがありすぎる。現に火の玉が当たった箇所からは煙が上がっているのだ。

「ふんっ・・今度は外さないわよ!」
「ちょっ・・ちょっと待ってよぉ!」

再び両手をかざした少女を見て、悠奈はまたしても逃げ出す。

「逃げちゃダメよユウナちゃんっ!闘うの!」

「バカいわないでよっ!あんなキケンな武器使ってくる相手にどうやって普通の小学生の女の子が立ち向かえって言うのよ!?」

「変身するのよユウナちゃんっ!これをつかって!」

そう言うと、レイアはなにやらカードのようなものを差し出して、ユウナの持っていた携帯電話にかざした。
すると、どうだろう。突然携帯が光に包まれ、次の瞬間には、ピンク色の花とキラキラ光るビーズをあしらったなんともファンシーなアクセサリーケータイに早代わりしたではないか。

「あーーーっっ!!なにすんのよアタシのケータイに!パパに買ってもらったばっかりのヤツ!やだぁっ!こんなキラキラでアタシのキャラじゃな〜い!」
「それで変身するの!ほら早く!」
「ジョーダンばっかり言わないで!大体ヘンシンなんてできっこないじゃんアニメじゃあるまいしっ!できるにしたってなんでアタシなのよ!?アタシは・・・アタシはみんなが思うほど・・・」


強くない。
そう、周りから勝手に決められた自分の印象。
でもそれを今さらキャラとして定着してしまっている性格を変えるのはきっと無理。
そんなことは彼女にはわかっていた。

でも・・・だからって・・・戦うなんて・・・

「大丈夫」
「?」

そんなことを考えていたら、このフェアリーが優しい顔を向けて笑いかけた。

「あなたは自分が思ってるより強い心を持ってる。だから選んだの。セイバーチルドレンになる子に必要なのは・・・勇気と希望、葛藤と決意。あなたは自分の性格に苦しみながら、なんとか自分を変えたいと思っている。そんながんばったり、悩んでる心に反応して、私はあなたのもとに呼び寄せられたの」

「そ・・・そんな・・・」
「ユウナちゃん、お願い!私もあなたが自分を変えられるように、力いっぱいお手伝いする。だから・・・・」

「なにをゴチャゴチャ言っている・・・これでとどめよ!」

「ユウナちゃんっ!」

ダークチルドレンズと呼ばれた少女が悠奈に向かって再び両手をかざした時だった

ドクンっ・・・と悠奈の中で何かが力強く脈打った。

(なっ・・・なに?コレ??・・・力が・・勇気が溢れてくるっ!)


悠奈の持っていた携帯電話、変化したソレが眩く光り輝く・・・!


「シャイニングスパーク・トランスフォーム!」


悠奈が叫んだ瞬間、彼女の体が光に包まれた。

桃色の頭髪のヘアスタイルが長く変わり、着ていた赤のシャツと青のスカートは白とピンクを基調としたダンスコスチュームに変化する。
肩までの上着にリボン、スカートといったコスチュームは目の前のダークチルドレンと呼ばれた少女のそれとはまるで対極に位置しているように見えた。


「輝くひとすじの希望の光・セイバーチルドレン・マジカルウィッチ!」

光の中から生まれた悠奈、彼女の手には、白と赤のラインにピンクの花飾りと大きなハート型の飾りがついたステッキが握られていた。




「って・・へぇ?・・ウソォ!?なにコレぇ!?ほっ・・ホントに変身しちゃった!?」

「ユウナちゃんっ!」

「うぅ・・セイバーチルドレンだと?コイツが!?ああもうっ!ウザイっ!とっとと吹っ飛びなっ!」

「ユウナちゃんっ!」
「え?・・・うわっ・・きゃあっ!」

状況をまだ飲み込めずにいるユウナに火の玉が容赦なく襲い掛かる。

「このぉっ!人がまだ混乱してるときにぃ〜〜・・」

「ユウナちゃんっ!早く魔法を・・・」
「これでとどめぇ・・」

「あぁもうワカンナイ!!もぅテキトーにやっちゃえぇ!ファイアボール!」

半ばヤケになって叫んだ悠奈、しかしその瞬間、構えたステッキから炎の球がほとばしった。

「うっそぉ!?」

驚いたのは少女の方だった。
いきなりのファイアボール、意表をつかれた攻撃に少女は体勢を大きく崩し、滑り台の上から地面に落ちた。


「いったたたた・・・・もぉ・・よくもやったわねぇ」

尻をさすりながら立ち上がる少女は続いて口をつく

「・・・・アンタ・・・何もの?」

「伝説の戦士!セイバーチルドレン・マジカルウィッチよ!・・って・・アレ??なっ・・何言っちゃってんのアタシ・・」
「まさかあなたがセイバーチルドレンだったなんてね・・・今日のところはこれで退いておくわ。でも覚えておいて、アタシはダークチルドレンズのサキ。必ずアタシがあなたを倒してあげる」

そこまで言うと、少女はなにやらカプセルのようなものを取り出し、それを地面に投げつけた。

「きゃっ!?」

眩い閃光とともに扉のようなものが現れ、その先に少女は消えていった。


「な・・なんだったのよいったい・・・」

「ありがとうユウナちゃんっ!」
「わっ!」

そう言ってレイアが飛びついてきた。

「あなたはやっぱり強いコだわ。見事にセイバーチルドレンになったんだもの。これからもよろしくね!」

「あ・・・あのねぇ・・これからって・・・ちょっとまって!?まだアタシあんなワケわかんないことしなきゃいけないの!?大体あんた・・・レイアだっけ?アンタはいったいナニモンなのよ?それに・・グローリーグラウンドって・・」
「う〜〜〜ん・・・詳しいお話は帰ってからにしたら?」

「かえってからって・・・・・ああああぁあああぁーーーーーーっっっ」

ふと、時間を見て悠奈が大声を上げた

「やぁばぁぁ〜〜〜〜いぃ!!もうこんな時間〜〜〜まっ・・ママに殺されるぅ〜〜〜っっ!」

言うが早いか、悠奈は一目散に家に向かって駆け出した。

「ちょっ・・ちょっとまってよユウナちゃん〜〜〜」










「へぇ・・・面白い。まさかあの子がセイバーチルドレンだったなんてな?」

「なかなかの魔力じゃない・・どうなのサキ?」

「心配ないわ・・・次は・・・必ずしとめる。あのフェアリーも一緒にね」

とある広い屋敷、その暗がりの中でそんな声が響いていた。
そこは誰の目にも触れることのない・・・グローリーグラウンドの中にある、大きな館だった。
愛澤悠奈、彼女の受難はまだ始まったばかり・・・










「こんなに遅くまでどこにいってたの!?」

「ひえぇ・・・・ゴメンなさい・・・」


「ごめんなさいじゃないでしょ!まったく、パパやママがどれだけ心配したと思ってるの!?」

「まぁまぁ・・ママ、そのくらいで・・・」

「パパは黙ってて!」
「おねいちゃん・・・・わるいこ?」


愛澤家リビング、予想したとおりのママの雷にすっかり悠奈は縮みあがっていた。
普段は自分にも妹の悠華(ゆうか)にもとっても優しい両親なのだが、パパとは違ってママは門限をやぶったり、嘘をついたりすると鬼のように変貌を遂げる。

愛澤家の門限は夏場でも6時、そして今現在は7時半、ママの怒りはすでに火山の噴火状態だった。
悠奈はただひたずら、あることを恐れた。


「こんなに心配かけて・・・約束もやぶって・・・ユウナちゃん。覚悟はできてるんでしょうね?」

「ひぇっ・・かく・・ご・・・?」

悠奈の中で警報がなった。まずい。ヤバイっ!と

「ママ・・・お願い・・・あ・・アレだけはカンベンして・・・」

「ダァメ!さぁ・・・ユウカちゃんはパパとあっちに行ってなさい」

「ま・・ママ、もうユウナちゃんも反省しただろうし・・・」

そう言って母親に駆け寄る父だが、ジロリと睨まれると、そのままスゴスゴと引き下がってしまった。


「ママぁ。おねいちゃん・・・おしりぺんぺん?」

「そうねぇ・・今日はおねえちゃん悪い子だったからねぇ・・・」

とたんに悠奈の顔も死人のように青くなった。
恐れていたことが、事実になってしまった。


悠奈の家庭はネイルサロンを経営する母、愛澤詩織(あいざわしおり)と月刊ファイティングスポーツの編集長をしている父愛澤俊介(あいざわしゅんすけ)と妹、愛澤悠華(あいざわゆうか)の4人暮らし。
父も母もとても穏やかで優しい性格、親子関係や夫婦仲も極めて円満そのもので絵に描いたような幸せ一家だった。
ただ、いかんせん、父は親馬鹿が過ぎたり、母は自分のファッションセンスを子供にもさせたいという思いがつよいところもあり、それが難点としてあげればあがるが・・・。

だが、父と母で決定的に違う所がある。
それは、一度娘たちが一定線を超えて悪いことをすれば、母はまさに鬼のように恐ろしくなるところであろう。
悠奈が地球上でもっとも恐れている人物の一人がこのママだった。




やがて、父が妹の悠華をつれてリビングを出て行くと、母は悠奈に向き直って言い放った。


「悠奈ちゃん、さあ、わかってるわね?お尻出しなさい」

その言葉を聴くと、もう悠奈は半泣き顔になっていた。
逃れられない恐怖と苦痛の時間。わかってはいたが、哀願せずにはいられなかった。

「ま・・・ママ、お願いっ・・もう門限破ったりしません、お約束もやぶらないっ・・だから・・だからぁ・・・」

ママの膝にすがり付いて哀願する娘。しかし、そんな娘の言うことには耳も貸さず、詩織ママは悠奈を抱き上げると、ソファにすわり、自分の膝に組み伏した。

「いやっ・・マぁマ・・・いやっ・・いやだよぉっ!」

「いやじゃないでしょ!まったく反省してないわね!今日という今日は本当にゆるしません!」

暴れる娘を制すると。詩織はそのまま悠奈のスカートを捲り上げ、パンツもそのまま膝上の辺りまで下ろしてしまう。

お尻を、包む、スゥスゥとしたいやな感じ、悠奈はついに観念し、かたく目をつむって息を呑んだ。



            ぱ ん っ !


響く乾いた音。
それと同時に、「うっ」というくぐもった悲鳴とびくっと震える体。

瞬間悠奈はお尻に走る電撃のような衝撃に震え、そしてその一瞬後にひろがるジワジワと熱いお尻の痛みをかみ締めた。

 ぱんっ ぱんっ ぱんっ ぱんっ!

続けざまに襲うママの平手打ちの連打。悠奈は悲鳴を上げ、体をよじりながらママに必死に哀願した。

「いやぁっ! きゃあぁっ・・いっ・・いたいっ! いたいよおっ!・・ママぁっ!ゴメンなさっ・・ゴメンなさぁいっ!もうしませんっ!二度としませんからぁっ!」

 ぴしゃっ ぴしゃっ !!  ぺしんっ! パシッ ぱしぃんっ! ピシィっ!

「やぁんっ・・いたいぃっ・・いたいですぅっ!・・やだやだぁっ!・・うっ・・ふえぇぇ・・・うえぇぇぇ・・・」

徐々に悲鳴が嗚咽と泣き声に変わる。
お尻が徐々に赤く色づいてくる、それにつれて、悠奈の息はどんどん荒くなり、目からは大粒の涙が、溢れ、零(こぼ)れ、迸(ほとばし)った。


 ぱあぁんっ! パァンっ! ぱちぃんっ! ぺちぃんっ! パシィンッ! ピシャァンッ! パンッパンッ! びしぃっ! ベシッ!

「今日・・・ママとパパがどれほど心配したか、考えて見なさいっ!勝手にどこに行くとも言わないで・・・小学3年生の女の子が一人でこんな時間までっ!」

「ひぃぃっっ・・だっ・・だって・・そ・・・それはぁぁ・・・」

「言い訳は聞きませんっ!悪い子っ!悪い子っ!パパなんか警察に電話しなきゃって泣きそうだったのよ!?ほらっ、自分が何をしたのかよぉ〜〜っく考えなさいっ!」

「うえぇぇ〜〜〜んっ・・だって・・だってぇぇ〜〜〜・・あぁぁ〜〜〜んっあぁ〜〜〜んっ・・」

コッチにだって事情はあるのだ。魔法戦士に変身して、魔法使いとたたかって、おまけに変な生き物に出会って・・大変だったのに!

なんて事情がママに言えるわけもなく、悠奈はただただ、もう恥じも外聞もなく泣き叫び、喚きながら、ママの怒りが解けるのをただ待った。

お尻はもう真っ赤。
悠奈のお尻に張り付いているママの手形が痛々しい・・・。
涙が飛び散り、絨毯とソファを濡らしている。

お尻が  痛いっ!  熱いっ!  壊れちゃうっ!

もう ヤメテっ! ユルシテっ! オネガイっ! ママッ! ママぁ〜〜っ!


泣き叫びながらも同時に心の中でそう叫んだ時だった。

そっ・・と、今まで悠奈のお尻を散々痛めつけていたママの手のひらが、熱く、紅く腫れ上がっている悠奈のお尻を優しく撫でた。


「ひっく・・・マ・・マ・・?」

「悠奈ちゃん、反省したかしら?」

「はっ・・反省・・ひくっ・・しましたぁ・・・ぐしゅぅっ・・もう、二度と門限やぶったりしません・・・ママとの・・お約束やぶったりしません・・うえっ・・・んっく・・だからぁ・・」

「はい、よく言えました。じゃあ、おしまい」


そう言って、詩織は悠奈の体を起こして、自分の胸に抱きしめた。

「ひっく・・ぐすっ・・・ママ・・・もぉ・・おしりぺんぺん・・おわり?」

「うん、もうぺんぺんはおしまい。だってユウナちゃんイイコになったもんね。もうママとのお約束破っちゃいけませんよ?」

「ふえぇぇ・・・ママ・・ママぁ〜〜・・・」

「よしよし、お尻痛かったねぇ〜、イイコイイコ、ユウナちゃんママの大事大事v」


お仕置きが済むといつもこうして思う存分甘えさせてくれる、それがママのいいところだった。お仕置きは絶対にイヤな悠奈だったが、この時間だけは大好きだった。

「じゃあ、今からゴハンにしましょう♪今日はユウナちゃんの大好きなエビグラタン作ったんだからvパパやユウカちゃんも呼んでくるわ。ユウナちゃんはママが準備してる間、自分のお部屋に行ってなさい。その間、今日どんなところが、悪い子だったのかもう一度考えてみること、いいわね?」

「ぐしゅっ・・はぁい・・・」

そう返事した悠奈に詩織ママはちゅっとキスした。










「ぐすっ・・・ひくっ・・・つぅっ・・いたたたた・・・」

「アハハ・・・まぁ・・・小さい女の子があんな遅くに連絡もなしに帰って来たら・・・そりゃあ叱られちゃうよねぇ〜」

「あ・・・アンタねぇ・・・誰のせいで怒られたと思ってるのよぉ!」

軽い感じで話しかけてくるレイアに悠奈は頭にきてクッションを投げつけた。それをヒラリと飛んで避けるレイア。
冗談じゃない。一体誰のせいでこんなに自分がイタイ思いをしたのか。

「アンタのせいで今日は散々だったじゃないの!ワケわかんない女の子には襲われるし、いきなり変身しちゃうし、知らないうちに狙われることになっちゃったし、ママにはこっぴどく叱られちゃったし・・・・・・っっ・・!!」

そう言ってもう一度クッションを投げそうになったトコで、叩かれたばかりのお尻が思い切り布擦れしてしまい、もう一度悶絶することになった悠奈。

「〜〜〜っもうっ!アンタのせいで明日はまともにイスに座れないじゃないっ!もうサイアクっ!」

「大丈夫大丈夫!私と出会ったことも、最悪なことだけじゃないわよ!明日になれば分かるって」

そう笑いかけるレイアがどこまでもうっとおしくてしかたなかった。









「では、次は18ページを開いてください、葉の中には葉緑素というものがあり、コレを用いることで花や木は光合成を実現しているんです。ですから・・・」


「ねぇねぇユウナちゃん、男の子のハートをつかむなら、まずはコッチからアタックしないと・・・・」

「・・・・・・。」

「そうすれば、どんなに鈍感な子だって絶対ユウナちゃんに振り向くよ?ユウナちゃんは見た目もとっても可愛いんだから!」

「・・・・・・。」

レイアの熱弁に一方的な無視を続ける悠奈、今は学校の授業中、他人に見えないことをいい事に、さっきからずっと悠奈に話しかけているレイア、授業に集中できないが、ヘタに相手にするとさらに手に負えなくなる恐れがあるため、悠奈はレイアの持論の一切に対して無視を続けていた。

「なんなら、私が魔法をかけて、ユウナちゃんの魅力を何倍にもしてあげようか?チャームの魔法ってのがあるのよぉ♪」

「・・・・・・・。」

「それとも、ユウナちゃんに振り向くようにクラスの男の子に魔法をかけちゃう手も・・・」

「〜〜〜〜〜〜っっっ」

しかし・・・

「なんなら、チャームの魔法を魔力増強アイテムをつかって、全世界の男の子を・・・・」






「あぁ〜〜〜もうっ!うるさぁ〜〜〜いっ!」

ついに悠奈がキレた。

「さっきからうるさいのよアンタはぁ!大体チャームの魔法ってナニよ!?アタシがスキなのは、ヒナタくんなの!今のトコ、ヒナタくん一人なの!チャームなんていい迷惑!授業中なんだからちょっとは静かに・・・・って・・・あ・・・・」


辺りが静まり返った。



「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」

クラスメイトの奇妙な視線。やってしまったとばかりに顔を真っ赤にして俯く悠奈。

「あの・・・・愛澤さん?その・・・だれと・・・おはなししてたの・・・?」

「あ・・・いえ・・・その・・・ひとり・・ごとです・・・。」

(さっ・・最悪っ!!最低っ!!絶対変人に見られた!それに・・・ああぁ〜〜〜んっもうっ!ヒナタ君にも・・・周りの女子にも絶対嫌われたよぉ!)

一人頭を抱える悠奈、しかし、そんな彼女に聞こえてきたものは・・・


          パチ パチ パチ パチ


「え?」

「スゴイよ!愛澤さん!こんな場所でヒナタくんに熱烈なラブコール!」

「ヒナタくんカッコイイもんねぇ〜おまけに親切で明るいし!ファン多いのよ、愛澤さんもヒナタくん派だったんだぁ〜」

「可愛いところもあるのね愛澤さんって、クールで近づきにくい印象あったけどぉ」
「なんか親近感わいちゃったぁ〜〜vねぇ愛澤さんじゃなくってユウナちゃんって呼んでいい?」


「え?・・あ・・そりゃ・・かまわないけど・・・」

「やったぁ〜〜よろしくねっ!ユウナちゃん!」


悠奈の周りにとたんに集まる女子の人だかり、その全てが、今の勇気ある行動を称え、温かく迎えていた。

(レイア・・・)

見ると、レイアがウインクしている。

(勇気をだせば、いいことがある・・・か。ありがとう、レイア)

悠奈はそのとき、憧れのあの人を見た。
はずかしいっ!!こんな大勢の前でまさかの告白っ!!


しかし、憧れの彼の表情はまるで太陽のように、どこまでも晴れやかに澄んだ笑顔だった。


ひょんなことから、魔法使いになってしまったユウナちゃん、大変だけど、これからは楽しい毎日がおとずれそうな予感がした。






                 つ づ く